『あなたの工賃は減りません』。その一文だけでは、胸の中の計算機は止まらない。
何が変わったのか、最小限だけ
調べた範囲では、こういうことらしい。令和8年の6月から、平均工賃月額に応じて決まるB型の報酬区分の基準が引き上げられた。きっかけは、前回の改定で工賃の数え方が変わって全国の平均が上がり、上位の区分に入る事業所が増えたことへの調整だという。
対象になる事業所は限られていて、平均工賃月額が一定額未満のところは対象外、減収になるところには中間の区分を挟んで影響を抑える配慮もあったらしい。細かい条件は厚生労働省の別添資料を見た方が正確だ。
ここから先は、制度の中身ではなくて、このニュースを受け取る側の気持ちの話をしておきたい。
「工賃は直接変わりません」の読み方
説明によれば、今回変わるのは事業所が受け取る報酬であって、利用者に支払われる工賃そのものではない。工賃は生産活動の収入から出るもので、報酬とは別の財布だからだ。
それはたぶん正しい説明なのだと思う。ただ、「直接は変わりません」の「直接」じゃない部分が怖い。報酬が下がれば事業所の収支は悪くなるかもしれない。その圧力はどこへ向かうのか。送迎、お弁当、休憩室の空気、新しい作業の導入。目に見えないどこかで、少しずつ薄くなるものがある気がする。
誰かが「大丈夫ですよ」と言ってくれる話ではなくて、自分から確認の言葉を持っていく話になる。そういう種類のニュースだ。
頑張ったほど区分が下がる構造への違和感
この見直しについて、工賃を上げることが支援の目標だったはずなのに、基準を引き上げると頑張った事業所ほど調整を受けやすい、という指摘を目にした。算定式のせいで数字だけ上がったところと、本当に生産活動を伸ばしたところをどう区別するのか、という話も。
新しい場所での人間関係については、体験利用の人が、隣の席に来た日のことにも書きました。
頑張って通う人ほど、便利な現場要員になる感じがするにも書いた通り、頑張りと評価が一致しない構造には、こちら側でもずっと慣れていない。制度の世界でも同じねじれが起きていたのか、と知ったときの気持ちは、少し複雑だった。
制度批判をする力量はない。ただ、ねじれを感じたことだけは、ここに置いておける。
事業所に聞く? 聞かない?
いちばん実用的なのは、サービス管理責任者さんや相談支援専門員に「うちも今回の対象ですか」「工賃や作業内容に変更の予定はありますか」と聞いてみることなのだと思う。説明する義務のある質問のはずだし、答える準備も進めているはずだ。
けれど、聞くこと自体の重さは前にも書いた。支援員さんに相談したあとが、いちばん気まずいに書いた通り、質問のあとの空気が読めない怖さは制度の話でも同じだ。
それでも、この種のニュースは、飲み込んだままだと勝手に最悪の解釈だけで育っていく。小さくてもいいから、確認できる形にしておきたかった。
自分の生活帳簿は自分で持っておく
もし将来、工賃や作業環境に何か変化があったとき、生活のどこが動くのか。通勤手段、昼食、貯金のペース、家族への説明。先に書き出しておくと、いざというとき慌てずに済む。
B型の工賃明細を、開く前に深呼吸する日があるに書いた、数字と自分のあいだに線を引く練習の続きとして、制度の動きの分だけ帳簿を更新しておく。それくらいは、自分の側の備えとしてできる。
制度はこれからも変わる。変わるたびに揺れるのは、たぶんもう少し続く。
同じニュースを読んだ人へ
報酬改定の記事を読んで「これは自分ごとなのか」と立ち止まった人がいるなら、その立ち止まりは必要な時間だったと思う。流して読める人と、読み飛ばせない人がいていい。
工賃は今のところ変わらない。変わらないと言われたものが将来どうなるかは、誰にも約束できない。約束できないからこそ、確認の言葉と生活の帳簿を持っておく。
ちなみに、厚生労働省の令和6年度工賃(賃金)の実績という資料では、B型の平均工賃月額は24,141円、A型の平均賃金月額は91,451円とされている。ニュースの背景にある数字を一つ知っているだけで、「自分の月」をもう少し客観的に置ける気がする。
そして、次の改定に向けた議論もすでに始まっている。厚生労働省の障害福祉サービス等報酬改定検討チームでは令和8年の夏から関係団体のヒアリングが続いていて、「工賃向上への評価の強化」や「A型のスコア方式の見直し」が要望として出ている段階だそうだ。何も決まっていない。決まっていないことを知っているのと知らないのとでは、次のニュースを受け取ったときの構えがちがう。
ニュースの数字と、自分の月。そのあいだを行き来した夜のことを、ここに置いておく。